こんにちは。ジェイグラブの横川です。
中国のECは、できないことはないが、日本や欧米のECとはその設計思想が異なるため、相当な覚悟と投資を準備しなければ難しいエリアだと言い続けています。日本のマスメディアは表層的な部分のみを伝えて実態を調べて伝えるものがほとんどないので、そうした情報に踊らされて夢を見ると、後で痛いしっぺ返しが来ます。しかし、ようやく実態を伝える記事が日経ビジネスから出てきました(参考:日本メディアもようやく中国ECについての良記事をあげてきた)。参考記事を上げておくので、あとで御覧ください。
今回は、イギリスで2日間に渡って行われた「イー・コンサルタンシー・ライブ2020」で、中国と欧米のECは何がどう違うのかというプレゼンテーションがありました。このプレゼンは多くが日本企業にも役に立つ内容ですので、ほぼほぼそのまま翻訳してこちらに記載いたします。
中国でのeコマース体験は欧米とどう違うのか?
世界最大の e コマース市場を持ち、世界最大のオンライン小売業者 2 社、JD.com(ジンドン、亰東) と Alibaba(アリババ)と 9 億人以上のインターネットユーザーを擁する中国でのマーケティングと販売は、 e コマース企業にとって魅力的です。
しかし、中国の e コマース事情は欧米と似ている部分もありますが、消費者の期待やトレンド、ブランドとの相互作用の違いなど、中国独自のものもあります。これらの違いを理解することが、中国市場で成功する戦略を構築するための第一歩となります。
Facebookのような欧米の大手企業は、中国テクノロジーが採用している戦略に注目し、それを自国でも再現しようとしているため、中国のeコマースに精通することは、一歩先を行くことを意味します。
イー・コンサルタンシー・ライブ2020の2日目にeコマース・ベスト・プラクティス・ガイドの著者でもあるコリン・ルイス氏が中国のeコマースの概況、特徴などを話しました。
オンラインマーケットプレイスの国
中国には世界で最も高収益のオンライン・マーケットプレイスがいくつか存在し、中国での e コマース取引の大部分がこれらのプラットフォームで行われています。Digital Commerce 360 の「Top 100 Online Marketplaces」ランキングによると、流通取引総額(GMV)で、世界の e コマース市場トップ 5 のうち、3 つの市場が中国に拠点を置いています。Tobao(淘宝網、タオバオ)、Tmall(天猫)、JD.com(亰東・ジンドン) の 3 社がそれぞれ 1 位、2 位、4 位にランクインしています。残りの 2 社、Amazon(アマゾン、3 位)と eBay(イーベイ、5 位)は米国に拠点を置いています。
他にも、中国で注目されているeコマース・マーケットプレイスには、急速に伸長し、JD.comを抜いて中国で2番目になったPinduoduo(ピンドゥオドゥオ、拼多多)や、オンライン・ディスカウント販売を専門とするVipshopなどがあります。
※ピンドゥオドゥオは、アメリカのグルーポンや、日本にかつてあったネットプライスなどのような共同購入サービスです。
ルイス氏は、「個々のブランドが消費者に自社EC通販サイトで直接販売するということではありません。個々のブランドがアリババが所有するTaobaoとTmallを中心としたマーケットプレイスを介して提供するのです。」
モバイル、モバイル、モバイル
これはおそらく、中国のインターネット習慣について最もよく知られている事実であり、何度も言うことではないほどですが、これを抜きにして中国の eコマースの特徴を語ることはできません。
「ノートパソコンやデスクトップPCを使わず、すべてがモバイルで行われています。すべてはアプリ上で行われています」とルイス氏は述べる。
コミュニティ・インプットの役割と口コミ
中国の典型的な買い物客と欧米の消費者のカスタマージャーニーの違いを強調するために、ルイス氏は、中国の妊婦の消費者がTaobaoで粉ミルクを購入する場合に取るであろうステップを説明しました。
中国では粉ミルクは「非常に大きな関心事」であり、消費者は購入前に多くの調査と検討を行います。特に注目すべきは、購入に至るまでのすべてのステップには何らかの社会的な証拠やコミュニティからのインプット、レビューなどがあることです。これは、購入行動初期段階で、子育て中のママが使うアプリや友人や家族からの推薦や、コミュニティボード上での質問やカスタマーレビューに至るまで豊富にあります。
また、製品に関する質問への回答は、「ブランドや工場と直接取引する」ことを期待していると強調しています。「アプリのボタンをクリックして誰かとやり取りをする場合、AIやロボットを使うことは期待されていません。」
消費者はカスタマーサービス担当者からの回答を「1~2秒以内に」と期待しており、レスポンスの速さも非常に重要です。
消費者の期待値が高い
e コマース全体の設計などは数ヶ月、あるいは 1 年に渡って描かれるかもしれませんが、スピードと利便性は中国の消費者、特に都市部に住む消費者が高く期待しています。ルイス氏は、中国の消費者は商品の当日配送や無料プレゼントを期待していると指摘しています。目立つためには、ブランドは「素晴らしいコピー、信じられないほどきれいな写真、購入プロセスが超高速である」必要があります。
中国の e コマースアプリもまた、消費者がワンストップですべてを利用できるように、可能な限り便利なものを提供しようと努力しています。Taobao、Tmall、JD.com はすべて「ミニプログラム」を持っています。これは、軽量な「アプリ内アプリ」の一種で、WeChat(ウィーチャット) が最初に開発し、後に中国の他の主要なプラットフォームのほとんどが真似をしています。
その結果、中国の消費者は、メッセージングアプリやフォーラム、ソーシャルネットワークにアクセスするために、メインの電子商取引アプリから離れる必要がなくなり、利便性が向上すると同時に、最終的に購入する商品のリサーチが容易になるというメリットをもたらしました。
独身の日、W11
中国のeコマースのクライマックスは、ショッピングフェスティバルであり、そのうち最大かつ最も派手なのは11月11日、独身の日です。元々は、その名の通り中国の独身者を祝う非公式なイベントで、1993年に初めて開催されましたが、Alibabaは2009年にこのイベントに便乗して、Tmallでの販売を加盟店に奨励するために開始しました。
2020年に至ると、独身の日は世界的な影響力を持つショッピングフェスティバルとなり、Amazonプライムデーやブラックフライデーよりも規模が大きくなり、開催されるたびに過去の記録が更新されています。2020年の独身の日には8億人以上の顧客が参加し、イベントのピーク時には1秒間に58.3万件の注文が行われ、Alibabaの物流会社であるツァイニャオは合計23.2億件の配送処理をしました。
イベント期間中、470以上のブランドが1億元(1,490万米ドル)のGMVを突破し、その中にはアディダス、アップル、エスティローダー、ロレアル、ランコム、ナイキなどの欧米ブランドも含まれています。
ライブコマースとキーオピニオンリーダー(KOL)
中国のインフルエンサー文化の多くは、ライブストリーミング、つまりライブコマースを中心に展開しています。基本的には、中国のインフルエンサー(Key Opinion Leaders、KOL)がライブストリームを主催し、リアルタイムで商品のデモンストレーションや質問に答えるために利用します。
「基本的にはQVCなどのテレビ通販のようなもので、eコマースとライブストリーミングの融合は、個々の eコマース・プラットフォーム全体で、本当に指数関数的に成長しています」とルイス氏は述べている。Taobao と Tmall は、JD.com、Pinduoduo、Mogu (ファッション中心のソーシャルコマース・サイトで、ライブコマースの初期のパイオニア)、Xiaohongshu (高級品に焦点を当てたソーシャルコマース・プラットフォーム)、その他多くの企業と同様に、独自のライブストリーミング・サービスを提供しています。
中国のライブコマースに関する報道は、「口紅王」としても知られる李家斉や、2019年の独身の日に向けてキム・カーダシアンと共同ライブストリームで提携し、数分間で15,000本の香水を販売したViyaなど、最も影響力のある多作なライブ配信セレブに焦点が当てられる傾向があります。
しかし、中国のインフルエンサーは、欧米と同様に、数千人から2万人のフォロワーを持つ小規模でマイクロなKOLから、数百万人から数千万人のフォロワーを持つメガインフルエンサーまで、さまざまな層のキーオピニオンリーダーで構成されています。
ライブコマースは中国の農村部でも急速に成長しているトレンドであり、農家はライブ配信プラットフォームを利用して新鮮な農産物や家畜を展示・販売しています。TaobaoやPinduoduo(Pinduoduo)などのプラットフォームは、特に生活が危機にさらされていた新型コロナ拡大感染の際に、農村部の農民がライブストリーミング・ビジネスを展開するための支援と訓練のためのプログラムに投資してきました。
これらのトレンドは欧米にどのような影響を与えているのだろうか。
先に述べたように、多くの欧米のブランドや組織はすでに独身の日のようなイベントに参加したり、中国のeコマース大手と提携したりしています。例えばルーヴル美術館は、10月にはAlibabaのオンライン・ライセンシング・プラットフォームであるAlifishと提携してTmallに旗艦店を開設しました。Alifishは、美術館で最も影響力のある作品を利用し、中国や海外の主要ブランドと協力して、それらの作品にインスパイアされたアイシャドウ・コンパクトやサッチェルなどのアイテムを開発し、中国の消費者がTmallで購入できるようにしました。
大英博物館も7月にAlibabaと同様のパートナーシップを結び、TaobaoやAlibabaの旅行プラットフォームであるFliggyでライブ配信されたバーチャルツアーを開催し、文化的な商品を販売しています。
さらに、中国の電子商取引のトレンドは西欧にも伝わり始めています。ルイス氏は、Amazonがライブストリーミングとビデオの両方を提供するようになったことや、InstagramやFacebookで「ライブショッピング」が展開されたばかりであることを指摘しています。ライブショッピングのデビューを祝うイベントの一環として、Facebookは女性ファッションブランドのアン・クラインと提携し、創業者の孫娘であるジェシー・グレ・ルーベンスタインがホストを務める4部作のライブショッピング・イベントを制作した。
西洋のソーシャルネットワークも、買い物がしやすくなってきていますが、これもまた中国からの影響です。中国では、ソーシャル・プラットフォームは頻繁にeコマース機能を提供しており、その逆もまた然りです。欧米では、Facebook、Instagram、Pinterest、YouTube、TikTokが、主にShopify(ショッピファイ)との提携により、プラットフォームにeコマース機能を統合し始めています。
ルイス氏はまた、個々のアプリが同じ一つのプラットフォームの下で他の様々なサービスや機能をホストする「スーパーアプリ」という中国のコンセプトが西欧にも浸透しつつあることも指摘しています。
Facebookは、ライブショッピングの立ち上げだけでなく、Facebookショップ内にメッセージング機能を統合することで、消費者が直接ブランドにメッセージを送ったり、購入プロセス中にサポートを求めることができるようにするため、ますますこのセットアップを真似しています。
ルイス氏はプレゼンテーションの最後にこう締めくくりました。「中国で何が起きているのかを調べ、それを将来のeコマース戦略のヒントにしてください。」と。
参考:How does the ecommerce experience in China differ from the west?
20年近く前、中国経済が急成長し、「世界の工場」と言われていた時代には、中国に現地法人を建てようと多くの日本企業が中国に向かいました。しかし、中国では中国資本の企業と合弁という形でないと現地法人が作れないため、そのほとんどが現地資本との合弁で現地法人を作りました。しかし、しっかり管理しないでいたり、日本人スタッフの派遣の頻度が落ちてしまったりすると、知らない間に乗っ取られてしまい、肩を落として帰ってきた日本企業も多かったという過去がありました。
表層的な部分だけで浮かれていると、また同じ轍を踏みます。というか、実際、表層的報道に乗せられて失敗している企業などを見ると、過去から何も学んでいないのだろうかとさえ思います。
今回のプレゼンは「中国がいかにすごいか」ではなく、「中国がすごいのは事実だ。が、しっかり調べてから戦略を練りなさい」というのがコリン・ルイス氏の趣旨です。事象を読み間違えずに進めて成功していきましょう。