こんにちは。ジェイグラブの横川です。
このブログでも何度か紹介している中国ECについてです。私は日本のメディアは表層面を伝えるのみでノウハウは伝えないから鵜呑みは危険と言い続けています。また、ネットで検索しても中国ECへ誘う記事のほうが多いので、そういう記事がデメリットを書くわけがありませんから、中国ECを知る上で決してフェアではありません。
今回はCNN BusinessとPYMNTSが数時間前に報道した記事を参照し編集して、また、最後のほうでは、中国ECの影の部分を追記しました。
CNN Business & PYMNTS記事:
中国で毎年行われる独身の日ですが、今年は、1日から11日の間に約7.9兆円売り上げたとニュースになりました(※)
※訳者注:実際には、11月以前からキャンペーンは始まっており、10月中にデポジット(予約)しておいて、独身の日セール中に売買が成立した売上も含んでいるので、純粋にこの期間中の数字というわけではありません。
市場調査会社フォレスターは、「中国経済は力強い回復を見せており、中国の消費者の購買行動はすでにパンデミック前のレベルに戻っている」とコメントしています。
別の市場調査会社オリバー・ワイマンの調査によると、中国の消費者の86%が昨年の独身の日と同じかそれ以上の消費をしたいと考えていることがわかっており、「狂ったように消費し続けている」とコメントしています。
中国の消費者は今年の初めのロックダウンの間にお金を節約せざるを得ず、旅行などで消費が出来なかったため、買い物客は独身の日に大いに期待したといいます。たとえば、通常メイベリンのメイクアップを買う買い物客がイヴサンローランを購入するといったように。つまり「今こそ贅沢をする時だ」と。
独身の日は、中国以外でもアリババ子会社である東南アジアのLazadaで、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナムなどで展開しています。
また、アリババはネットショッピングと同時に華やかなライブコンサートも開催し、メインの日までのカウントダウン・イベントを敢行しました。昨年のパフォーマーはテイラー・スウィフトで、今年はケイティ・ペリーでした。
そして、中国といえば、ライブコマース(スマホなどでライブ配信して商品説明する)で、これは従来から存在していましたが、特に「重要な成長ツール」になると予想されていて、ロックダウンの間に本格的に動き出しました。
オリバー・ワイマンの調査によると、化粧品や乳児用粉ミルクなど、独身の日の人気カテゴリーでは海外ブランドが引き続き独占しているが、今年は電子機器やスマートフォンなどは中華ブランドの製品を――愛国心とは関係なく――購入する中国の買い物客が増えていたようです( iPhone が異様に高価に表示されるため、それならデザインやスペック的に遜色ないファーウェイやシャオミから買うというのが理由)。
しかし、この華やかな舞台裏では別の面で影を落とす一面も起きていました。中国の当局が、アリババの金融関連会社であるAnt Groupの上場にブレーキをかけたことがそれです(ジャック・マーが中国当局がイノベーションを抑制していると公に批判しているのが中止された一因ではないかと指摘する声もある)。
アリババの独身の日の成功の裏で、中国政府がeコマースや決済サービスへの圧力を強める新しい独占禁止規則を発表したことで、アリババの株価は香港証券取引所で9.8パーセントも急落しました。
中国の新たな規制案の目的は、インターネットプラットフォームの経済活動における独占行為を防止・停止し、法執行者や事業者のコンプライアンスコストを下げ、プラットフォーム経済に関する独占禁止規制を強化・改善し、市場の公平性を守り、消費者や社会の利益を確保し、プラットフォーム経済の健全で継続的な発展を促すことと報じられています。これは、市場の50%以上を支配している場合、「支配的地位」にある企業が新規則の対象となるとしています。
参考:
Singles Day: Alibaba sales blitz rakes in $75 billion as Chinese shake off Covid-19 (CNN Business)
Alibaba Single’s Day 2020: Sales Records Broken, But New Chinese Regs Spoil The Party (Pymnts)
こうした「楽天の◯倍も売った」的な(いつもこういう時に引き合いに出される楽天が少し気の毒な気もしないではない)華やかな面がある一方、当然”コインの裏”というのもあるもので、デメリットも存在します。
実際、中国では必要なライセンスがない商品、KOL(インフルエンサー)が虚偽や誇大表現をする、スレスレを通り越した完全違法な宣伝をしている、KOLの説明と異なる物が来る、視聴者数や商品の販売数の表示を水増ししている、アフターサービスが受けられないなど、ライブコマースに対する消費者の苦情も増えており、特に販売数や視聴者数の水増し問題はKOLへのプロモーション費の異様な高騰につながっています(一流のS級ランクのKOLに頼むと、2000万円くらいかかることがあります。これは日中で代理店がコストを上乗せしていることで増大しているのですが、仮にこうした仲介業者を省いて直接交渉できたとしても1000万円はかかると思われます。S級以下のKOLにしても優秀なKOLなら1回あたり100~500万円はプロモーション費として計算しておく必要があるでしょう。本気でやるならば。)。
また、セール中の雰囲気に飲まれて、勢いで買ってしまう人も多いため、お祭りの後には返品も極端に増える時期でもあります。一説には40%も返品される商品もあると言われており、こうした一連の作業にかかるコストを入れると一流ブランドで資金に余裕がない限りは厳しい局面も予想されます。
結局のところ、中国での認知度がない状態では、売上につながらず、かなりの投資を覚悟する必要がある市場であるということに変わりはありません。