jGrab

越境ECブログ

タイの消費者や企業がTemuに反発

Pics Provided by Ascannio

こんにちは。ジェイグラブの横川です。

以前、Temu関係の記事で、EUが関税のルールを変更するかもという記事を紹介しました(参考:SheinとTemuがEUの関税引き下げに向かわせる?)。

関税の目的は、国内産業の保護にあります。国内製品より安価な海外製品が雪崩を打って流入してきたら国内産業が持たないからです。国内産業保護のために関税でできることは2つあります。ひとつは輸入品の関税率を引き上げること。もう一つは関税の発生基準値を引き下げる、あるいは撤廃することです。EUは中国からの安価なものの大量流入を受け、関税発生基準値を撤廃しようと動きがあるようです。

関税発生基準値を撤廃するということは、どんなに安いものでも関税が発生するので、最終的に消費者が支払う額は高くなります。これを中国から発送された物に限定するのかどうかはわかりません(限定したところで、中国の近隣で関税のルールが緩い国に在庫を移して、そこから発送させればEUのルールを回避できてしまうので、おそらく無条件で適用していくのではないかと思います)。

インドネシアなどもインドネシア以外の国に拠点を置く、ECプラットフォームに厳しくなってきました。今回はタイも似たような動きになっていくのではないかという話です。


タイの消費者、起業家がECプラットフォーム「Temu」に反発

幅広い製品を超低価格で提供し、世界中のEC業界に衝撃を与えたTemuは、企業と消費者の両方から激しい反対に直面している。

「億万長者のように買い物できる」がキャッチフレーズのTemuは、世界中で急速に事業を拡大し、米国とヨーロッパで大きな市場シェアを獲得している。仲介業者を排除し、共同購入を活用する同社のビジネスモデルは、非常に効果的であることが証明されている。しかし、タイへの進出は、不公平な競争、サプライチェーンの混乱、雇用喪失への懸念を引き起こしている。

タイでは、昨年7月下旬にTemuタイ語アプリを立ち上げ、東南アジア地域で3番目にTemuをホストする国となった。アプリはバーツ価格、送料無料、返金システムを提供しており、商品は通常、広州からバンコクまで5日以内に発送される。

しかし、Temuのタイ市場への参入は順風満帆ではなかった。

タイの地元企業は、事業への潜在的な影響について警鐘を鳴らしている。中国のメーカーが著しく安い価格で製品を提供しているため、タイの生産者は競争に苦戦し、工場の閉鎖や失業につながる可能性がある。さらに、プラットフォームで販売される製品はタイ政府が求める基準を満たしていない可能性があるため、品質と安全性に関する懸念も高まっている。

この状況はソーシャルメディア上で反対運動の拡大を引き起こし、#แบนTemu (Ban Temu) などのハッシュタグが注目を集めている。Temuタイランドのページへのコメントには、地方税を支払わず、タイ人労働者の仕事を奪う可能性のあるアプリを支援することへの懸念が表明されている。

批評家たちは、Temuがタイ国内での営業許可を得る前に、TIS認証などのタイの基準を満たし、税金を全額支払うよう求めている。

こうした懸念に応えて、タイ政府は歳入局、商務省、デジタル経済社会省などの関係機関に、Temuのタイへの参入に対処するための戦略を策定するよう指示した。

税務局は、Temuは現在タイのVAT登録法の対象外であり、プラットフォームにVAT登録を強制することは不可能であると述べた。

Temuはタイの起業家やソーシャルメディアユーザーからの強力な抵抗、そして政府機関からの厳しい監視に直面しており、タイ市場への参入はこれまでの世界展開の取り組みよりもはるかに困難になる可能性がある。

参考:Thai consumers, entrepreneurs up in arms against e-commerce platform Temu


おわりに

急速に成長した反動で、このところ様々な問題に直面し始めたTemuですが、この問題を難しくしているのは、Temu自体がEUやタイなどのルールを破っているわけではない点で、これまで誰も想定しなかった超低価格で販売されるために、結果的に現地産業の保護ができないということにまでなっている点です。

こうした動きが世界のあちこちで広がってくると、「日本にいながらにして、パソコンの前に座っていれば世界を相手に取引できる」という越境ECの魅力が削がれ、越境ECがオワコン化し、今後は、現地法人を設立して、現地法人から現地のECプラットフォームに出品するなどの方策しか無いという可能性があります。こうなると、越境ECですらハードルが高いと感じて、なかなかスタートに踏み切れなかった企業が、もっと取り組みにくくなるため、商社頼みの展開か、日本大沈没の未来すら見えてきます。もしこうなってしまうとしたら、いまから頼りにできる海外の人脈づくりをしておくのが良いかもしれません。

以上は、すこし大げさに考えた未来予想ですが、こうならないことを祈るばかりです。

しかし、この記事で気になった箇所は他にもあります。
「中国のメーカーが著しく安い価格で製品を提供しているため、タイの生産者は競争に苦戦し、工場の閉鎖や失業につながる可能性がある。」
です。

タイの物価は、ただでさえ日本と比べたら安いのですが、そのタイが中国製品が安すぎると言っているのです。これを見ると、「日本製は高いけど品質がいいし、耐久性がある」というお題目を言っていても売れないということが分かりますね(「だからこそ、富裕層に」という声もありますが、富裕層の人口がどれだけのものか考えましょう。そして、そういった層に対しては世界中の有名企業、超有名ブランドもライバルになります。果たして勝機がどのくらいあるのか、真剣に考えてみましょう)。

Writer 横川 広幸

横川 広幸 取締役 越境ECコンサルタント eBayJAPAN創業時に法人営業、マーケティングに従事。eBayに連携した越境ECサイト “Tokyotrad” で日本の仏具を世界86カ国に販売。自らの越境EC成功体験を越境ECアドバイザーとして日本全国でセミナー講演や個別相談を行う。

SEARCH

CATEGORIES

MOST READ

ARCHIVE